
絵本作家の祐彩(ゆうせい)です。
寝る前の時間帯は、不思議です。
さっきまでバタバタキャッキャッと、全身で遊んでいた子どもたちが、しゅーっと静かになり、布団にくるまる。
その余白の中で、寝る前の5分が、親子にとってとても大切なものになることがあります。
毎日がドラマチックでなくてもいい。
完璧な子育てじゃなくてもいい。
ただ、その日のラストを、やさしく締めくくるだけで、親子の心にそっと灯りがともることがあります。
昼の出来事は、時にそのまま心に残ります。
楽しかったことも、うまくいかなかったことも、全部かたまりのまま。
寝る前の絵本の読み聞かせは、そんな1日の終わりに、ふわりと身をゆだねるふかふかベッドのよう。
おはなしのテンポや絵の色合いから物語の中に入っていき、子どもはもちろん、大人も自然と心の揺れがゆっくりになっていく…。
「今日はいろいろあったけど、まあいいか」と思えるやわらかい場所が、そっと生まれることがあります。
寝る前の絵本の読み聞かせって、親子のコミュニケーションや寝かしつけ以上のものなのかもしれませんね。
長女が小学生のときまで僕は、絵本『おやすみエレン』を毎日読んでいました。
8:2の割合で僕が読みながら途中で寝てしまい、長女を夢の中へ誘うことはあまりできませんでした。
ご存知の通り、寝る前の絵本の読み聞かせの内容が、寝る前用である必要はありません。逆に僕のように読み手が寝てしまうこともありますから。
子どもが選んだ絵本でも、たまたま手に取った絵本でも、その日によって違えばそれでいいと思っています。
大事なのは「一緒に絵本のページをめくる」という行為のほう。その時間が、親子のおだやかな心を自然に引き出してくれます。
拙著絵本『ハレとアメのきらきらあつめっこ』を読んでくださった方から、「寝る前に読むと子どもがやさしい表情で目を瞑るんです」「うちの子は、たくさんのきらきらを想像しているようで、ニコニコして眠りについてます」
そういった言葉をいただくことがあります。
絵本『ハレとアメのきらきらあつめっこ』の物語の中には、ハレとアメの誰もがやってしまうようなやりとりや、誰かを思って動いた時にだけ降ってくる『きらきら』があります。
そのやさしい光のようなものが、寝る前の時間にちょうどいいのかもしれません。
子育てをしていると、よい日をつくろうと努力してしまいがちではないでしょうか。
僕はちょっとした強迫観念のように、子どもたちにとって素敵な時間を、1秒でも多く過ごさせたいと考えていた時期がありました。
でも、もしかしたら大切なのは、その日をどう締めくくるかなのかもしれません。
たとえば…
「今日はどんなきらきらがあった?」
「ママ(パパ)はね、◯◯の時にきらきらを見つけたよ」
そんな風に、絵本をきっかけに少しだけ気持ちを分けあうだけで、その1日はやさしい日へと変わっていくのではないかなって思うのです。
絵本『ハレとアメのきらきらあつめっこ』のライブ絵本版では、読み終わってからも親子で『きらきら』を見つけられる仕掛けがあります。
寝る前にそっとその続きを楽しめるのも、この絵本ならではの余韻です。
寝る前の5分は、長い1日の中でほんの少しの時間。
でも、その締めくくりの積み重ねが、とても大切な気がしています。
慌ただしい毎日の中、親子のペースで、やさしい終わり方をそっとつくってみる。
絵本はそのお手伝いができる、ちいさくて心強い存在なのかもしれませんね。